人は”まだ得られていないもの”より、”置き去りにした欲望”に執着を示すのかもしれない。
満たされなかった学生時代。
青春を謳歌しようと必死に駆けずり回ったけれど、様々な素敵なものを手に入れた一方で、一番欲しかった青春を手に入れられずに大人になってしまった。「夢を持て」と大人は言うが、夢が遥か彼方遠くにある日々を送り続けると、世の中に対してひねくれて生きていくしかなくなる。ずいぶん回り道をしながら、ここまでたどり着いた。
とはいえ、15歳のfqt少年は一筋の光を見ていた。
今は波は来ない。どうあがいても疾走感は得られない。だけど、今鍛錬を積み重ね、自由に使えるお金を手にし、余裕のある素敵な紳士になれた時、きっと輝ける時代が来る、と。だから、今は悔しい気持ちを持ちながらも、ひたすら高みを目指していこうと。
少年のこの”読み”は、当たるどころか、想像もしなかったような景色を見せてくれた。

「俺にとっての理想のデートは、放課後デートなんだよね。相手のスペックだとか、生活の安定だとか立場だとか、そんなもの一切関係なく、純粋な相手への思いだけで満たされる空間が欲しかったんだよね。」
「わかる~!それそれ!!」
BARカウンターを前に可憐な横顔を見ながら、手に入らなかった架空の思い出を頭に浮かべながらカクテルを飲む。少し暗い店内で手元だけ照らされる中で見える笑顔は、天使がくれた贈り物のようだ。
「あの時、ずっと好きだったのに何にもできなかったんだよね。俺はどうすれば良かったのかな??」
「それは勇気を出して声を掛けてみても良かったんじゃない?」
「いやー、その状態だったら何もしなくて正解だったかも!」
なぜか会長を務める女子会のトークテーマは、臆病な主人公のダメダメな物語だったりする。4,5人でテーブルを囲んでパンケーキを食べながら、過去の恋愛の反省会だ。女性のことは女性に聞くのが一番。当時見えなかった向こう側の景色が見えたり、自分が思い込んでいたものの解像度が上がったり、また1つ賢くなった気分だ。そして蓄積された「ビッグデータ」は匿名化・暗号化され、誰かのお悩み相談に役立てることができる。

こんな日々を送ると、fqt少年は予想していただろうか?
一方で、過去に単発的に訪れたチャンスと異なり、継続性・再現性があるステージに上がれたのではないか?とちょっとした確信を持ち始めている。
まず、見た目に気を遣うようになった。
今までは「俺が思う男らしさ」だけで、気を遣う部分と遣わない部分の差が激しかった気がする。
それをやめ、美容院の激戦区・表参道に行くようになった。ただカットするのではなく、ヘアスタイルを女性美容師に相談し、パーマをかけ、出掛ける前にはムースとワックスでセットするようになった。
服装を変えた。当日の予定を確認し、どの色の組み合わせでいけば良いか、で選ぶようになった。
会社にスーツで行かなくなった。高級感のあるテーラードジャケットの胸元に、「その辺」では売っていなさそうな柄シャツが見えるように等考えるようになった。
メガネもクラシカルなスタイルなものに変え、脱毛の効果も出始めてきた頃だ。
そして、きちんと「聞く」ようになった。気になる人に自分から声を掛け、相手のニーズは何か言葉にしてもらえるものは漏らさず、言葉にならないところも頑張って読み取るようになった。
ここからは持ち前の政策立案力。Davyとして様々な発信をしていたことが役に立っている。「俺がしたいことを相手にする」のではなく、個人向けコンサルだと思って提案するとともに必要な根回しも手回しもする。ニーズとニーズをつなぎ、グループを作る。何が幸せにつながるかを必死で考える。もちろん、バカな話を間に挟むなど必死さを隠しながら。
Davyになり立ての頃、政治の世界を志したこともあった。自分のアイディアで世の中を良くし、誰かを幸せにしたい、と願いをこめて。
ただ、ここまでやってきて思ったのは、俺は単純に目の前の人を幸せにしたかっただけなんだ、ということがわかった。政治の世界で大それたことをしたかったわけでなく、目の前で悩んだり苦しんだりしている人が、自分の力によって少しでも笑顔になってくれたらいいなって。それは、誰かに地位や立場を与えてもらわなくたって、今の自分としてやれることをやればいい。
仕事も人間関係もそれが自分の軸としてフィットするようになってから、うまくいくようになった。”置き去りにした欲望”の穴埋めができるようになったのは、そんな自分に誰かがボーナスを与えてくれているのかもしれない。下心だって、その上に真心を重ねれば、それは立派な愛情になる。
家庭だって同じこと。仲間との交流は、家の窓を開けて風通しを良くすることだ、とよく家で話している。
コロナ禍を経て学んだが、換気ができていない空気が淀んだ環境は感染症リスクが高まる。そうかといって、壁も窓もない空間では寒くて風邪をひいてしまう。きちんと囲われた家屋を持ち、その窓を適度に開放しておくことで、空気が入れ替わり家の中の風通しが良くなる。
「人を呼べる家にしたい」そんな我々夫婦の願いが現実のものになった。
まさか直属の上司も含めた天文部の仲間が15人も我が家のリビングに入るとは思わなかったが。
健全な家庭と仲間を本気で守り、ほんの少しの恋心をスパイスに暮らしてみる。
そのスパイス部分は、俺の創作意欲をかき立てる。リアルで起こった出来事とはかけ離れてしまうものの(むしろかけ離さないとストーリーとしての面白みがない)、溢れる妄想の着火剤程度にはなる。まだまだ書けていないストーリーがあるどころか、先日の話ももう2年も前のことになり、執筆がリアルに追いついていない、いや、間に合わないくらい出来事が増えたというのは嬉しい悲鳴だ。
とりとめもなく思うがままに書いてしまったが、取り急ぎ近況報告を。


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