さようならとは言わせない

過ぎゆく日々は、終焉が見えた時に初めてその尊さが感じられる。
いつだってそうだった。そんな経験を繰り返してきた。だから、ひょっとしたら「終わり」というものに鈍感になっている自分がいたかもしれない。
でも、今回は違うんだ。

大学を卒業し、今の会社に入って2年4ヶ月。入社当初はサラリーマン生活というものに慣れず、「俺は一生つまらない人生のまま終わってしまうんじゃないか」と涙した日もあった。広告関係の部署に配属され、上司や先輩に怒られながら、少しずつ仕事というものを学んでいった。2年目に入り組織が変わった頃からは、周囲に教えることも多くなり、ほんの少しだけ大きな顔して仕事できるようになった。入社当時から興味を持っていた資産クラス「J-REIT(不動産投資信託)」の知識もどんどん身につけ、2年目にして「J-REITならあいつに任せておけばいい」と周囲から認めてもらえるまでになった。人事異動などで頼りになる上司や先輩がいなくなったこともあり、僭越ながら役職はないけど俺自身が部を面倒みることもあった。そうやって、小さな信頼を積み重ねてここまできた。全てが順調かに思え、楽しくリラックスした日々を送っていた。

だが、幸せな日々は長くは続かなかった。
俺自身に人事異動が言い渡されたのだ。

「銀行に行ってこい」

聞いた瞬間、全身の力が抜け、震えが止まらなくなり、吐き気を催すまでに至った。

某メガバンク本社への出向だ。来月から銀行員になれという。
「栄転じゃないか」と言う人もいる。でも、俺はそうは思わない。

とにかく過酷な環境らしい。残業時間が今の3倍近いと聞く。少なくともアフター5を充実させるなどという今みたいな生活は今後一切できなくなる。
また、上意下達の縦社会。ドラマ半沢直樹を見た人ならおわかりかとは思うが、とにかくドロドロした世界だと聞く。過去にはウチからの出向者も何人かいるが、ほとんど疲弊して帰ってきている。恐ろしいことこの上ない。

ましてや、企業再編報道も飛び交う中、任期満了後に帰ってくる場所さえ危うい。帰ってきても浦島太郎状態になりかねない。不安で不安でしょうがない。

何よりも、今まで一緒に仕事してきた仲間を失いたくない。通常の人事異動とは違い会社を離れることになるので、関係者にはご挨拶させていただいたが、改めて自分に関わってくれた人の多さに気付かされた。
俺は仕事をする上で「人を大事にする」ということを重視している。仕事のやり取りを必要最小限だけするのではなく、他愛ないことを雑談したり相談したり、時にはランチや飲みの席をご一緒したり。老若男女立場役職に関わらず、人と仲良くすることを最重視してきた。
自分が知識も能力もないのは俺自身が一番よくわかっている。1人でできることなんかたかが知れている。だから、部署関係なく色んな人と仲良く話せる状況を作り、そういった方々のお力を少しずつ拝借する形でスムーズに仕事を進めてきた。たまに「Davyくんは仕事が早い」なんて褒めてくれるひともいるが、これは俺の力でもなんでもなく関係者が力を貸してくれているからに他ならない。だからこそ、そんな愛情溢れる大事な大事な仲間と離れることがこの上ないくらい辛いんだ。

仕事に厳しく近づきにくいとされている他部署のマネージャーに「あなたがいなくなると本当に困るわね」と言ってもらえた時は、涙が出そうになった。周りの人はその人のことを怖いだの融通がきかないだの言うけれど、俺はその人のことが好きだったし、正確な資料を作る上では誰よりも知識がある人だから、信頼していたし頼りにしていた。その人からそんな温かい言葉を頂けるなんて思ってもいなかったから、「ああ、こんな俺でも彼女に認めてもらえるだけの仕事ができていたんだな」って思えて本当に嬉しかった。

また、入社時から俺を支えてくれていた1つ上の女性の先輩。1人ぼっちだった俺に声を掛けてくれた先輩。公私共に本当にお世話になった。大好きだった。変な意味でなく、俺を男にしてくれたのはこの先輩だ。詳細はここでは書かないが、本当に可愛がってくれた。俺が泣いた時は一緒に泣いてくれたし、仕事面もそれ以外も心の支えになってくれた大事な人だ。でも、この先輩の仕事は今度行く先と関わりのあるものだから、今度は向こうから支えようと思う。

そして何より。相棒との別れ。
1つ下の女の子。俺が一番大事にしていた後輩だ。
いや、後輩なんかじゃない。俺は対等の友達でいさせてもらった。
いつも一緒だった。仕事に関して言えば、俺が持っているものは全て彼女に伝授したつもりだ。今ではすごく頼もしい存在になり、むしろ俺の方が彼女を頼りにしているくらいだ。
昼休みに関してもほとんど一緒だったし、夜飲みにいくこともあった。周囲からは「付き合っているんじゃないか」と思われるくらい仲良くさせてもらっていた。向こうの方がしっかりしていることから、俺たちの会話は「夫婦漫才」と言われることもあったくらい。
似た者同士なんだ。体育会系嫌いで、心を完全に許さない相手と皆で騒ぐのは好きじゃなく、説明したいことは1から10まで言わないと気が済まなく、キレイ好き。かと言って、面倒くさがり屋で、友達がそんなに多い方でもなく、異性関係に関しても似たような認識を持っている。理想とするところも近く、俺にとって自分の分身がそこにいるんじゃないかと思えるくらい。
一生大事にしたい存在と巡り合えたことは奇跡なんだと思う。俺としては、お互いどんな立場になろうとずっと味方でいたいし、仲間でいたい。
とても素敵な本当に可愛い女の子だ。人としてちゃんとしているし、何より心がピュアだ。(入社してから俺が随分汚してしまったな。。。なんて考えると申し訳ない)
仕事面でも気配りができるし、リーダーシップもある。知識を吸収しようとする貪欲な姿勢は俺にはないものであり、一流のプレーヤーのみならず一流のマネージャーになれる素質がある。
プライベートでも良妻賢母になるだろう。美しくエレガントでありながら、肝っ玉母ちゃんのような頼りになる母性や強さもある。
気がかりなのは、こんなに才能に満ち溢れ真面目な人だから、あれもこれもやろうとして共倒れしないかということだ。それに関しては、俺は仕事を通じて取捨選択の方法を教えてきたつもりだ。あとはそれを実行する勇気を持つことのみ。今後の彼女の活躍に期待したい。

なーんて、偉そうに語ってきたけど、すごく寂しい。
あれからずっと涙が止まらないけど、ちゃんと任期満了してビッグになって帰ってこよう。

別れとはいうけれど、まだ俺たちは始まったばかりじゃないか。
この筋書きのないドラマにこれからどんなシナリオを作っていこうか。それを楽しもうと思う。

楽しめればきっと成功する。

新しい俺たちのストーリー、幕開けだ。

Buffer

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