同じ海を見ていた

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「ずいぶん、遠くまで来たな・・・」
360度どこを見渡しても青い景色が広がる世界。
目下に広がるのは穏やかな太陽に照らされた海。
水平線を境に俺のいる空間を包んでいる空。
また一機、大きな翼を持つ鉄の鳥が轟音を立てながら飛んでいく。

俺は鉄格子に腕組みしていた肘を置き、少しばかりため息をつく。
目の前の景色がやたらと青く見えるのは、サングラスのせいなのか。
それとも、本当に景色そのものが青いのか。

いずれにせよ、かつては見ることのできなかった景色を見ることができ、本来立てるはずがなかったステージに立っている自分を誇りに思う。
そして、自らが走ってきた道を振り返り、その道のりが意外にも相当長かったことに気付く。
たった3ヶ月半なのに。
まだ信じられないんだ。目の前に広がる景色が。
見えているのは幻想なのか。俺は復活したのか。それとも、新たなステージに入ったのか。
戸惑いの原因は、自分の置かれている境遇がまだ理解できていないからかもしれない。

2008年秋 高3の時。
高校をサボり海岸へ向かった俺は、リュックサックを枕代わりにして砂浜で寝そべっていた。
やがて来る冬の時代を前にして、最後の郷愁を楽しんでいた。
いや、その時既に冬に入っていたのかもしれない。
自分以外に愛情を向ける術を持ち合わせていなかった俺は、愛すべき対象を自らの思い出へと仕向けたんだ。
幼い頃、母親に読んでもらった童話の続きのストーリーを考えるように、俺は自らの思い出に「if」を作ったんだ。
とても美しい話だった。汚れた要素など何一つなく、「if」から始まるストーリーこそが俺がこの世で最も愛した憧れだった。
それからしばらくして、その時作った幻想は無残にも打ち砕かれるのだが。
打ち砕かれた直後、そのストーリーを永遠の夢にしたくて、俺は詞を書いた。
それが、「Imaginary Lover」だったんだ。

風の強い海岸で 君と待ち合わせ
「遅れてゴメン」と走る 真っ白の天使

白波が打ち寄せる 「波がキラキラと
光るね」君がつぶやく 眩しいのは君さ

クリスマス 彩る街 だけど本当は
隣にいる君の方が ずっと輝いてる

星空を見上げてみる 満天の夜空
こうやって会えるのは最後と チョット切なくなるね

僕はもうすぐ旅立つ 果てしなく遠くの戦場へ
もう2度と帰って来れないforever 涙が止まらなくなるよ

愛しいImaginary Lover 雪とともに消えるのか
桜散る季節になったら 夢の中に来ておくれ

当時からロックテイストが強かった俺には似つかわしくない、ピアノ旋律の美しいバラード。
音源化できないのが非常に残念だが、頭の中では曲はできている。

思い出を永遠の夢にしてからは、ひたすら理想の世界に生きた。
あとから振り返って誇りに思えないようなことはするべきではないと、固く心に誓った。

守りたかった。夢は夢のままでいいと、心の中で叫んでいた。
そして、俺は俺でいるんだと。たとえ誰にも評価されなくても、俺自身が一番大好きな俺でいようと思った。
理想の男を演じることにより、いつかその理想の男に追いついてやろうと。
自由を愛し、常にフェアな自分でいたい。
誰かに嘘をつくということは、自分にも嘘をつくということだ。
自分を偽ってまで、誰かに評価されようとは思わない。
たとえ自分が不利になる情報でも、きちんと開示しなければフェアではない。
そんな責任を自分に課すことで、1円にもならないプライドを守ろうとしているんだ。

もしかしたら、同じなのかもしれない。
高3の時に見ていた海と、今目の前に広がっている海は。
だとしたら、今度こそ、本当にやるべきことをしなければならない。
今回こそ、ラストゲームだ。
幻想の万年筆から、リアルな万年筆に持ち変える瞬間が来たようだ。
誰にも描けないストーリーを描いてみようじゃないか。

ただし、これだけは約束したい。
リアリストに成り下がるつもりはない。茨の道かもしれないが、ロマンチストのまま、最高に美しいストーリーを描いてみせる。
理想と現実のギャップに絶望?冗談じゃない。
現実は汚いもの?冗談じゃない。
理想を現実に投影するんだよ。今までだって、そうしてきたじゃないか。
無味乾燥なモノクロの世界を、カラフルで彩られた世界に変えてきたのが、俺の人生だ。
これが「アーティスト」なんだよ。作品は、自らの人生の中でプロダクトすればいい。

俺の中で起こりつつある変化。具体的に書けないのが何とも残念だ。
イメージでとらえてくれ。いつかきっと話す時が来る。必ず・・・。

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