真夜中のタンデム・ロード

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何もかもを拭い去り、走り出したくなる夜。
ジメっとした生暖かい空気も、自らの手で切り裂いた瞬間、クールなまでに爽快感のある風になる。
It’s up to you!!(お前次第だぜ!)
俺は、背中を通して、そんなことをあいつに伝えたかったのかもしれない。

説教なんかする気は毛頭ない。上からモノを言える立場じゃない。
見たかっただけなんだ。フリーダムを謳歌して楽しんでいる姿を。
バカなヤツだと誰からも思われるくらい、無邪気に笑っている素敵な顔を。

そして、自分自身にも問いかけていた。
いいんだよな、これで。
失われた季節は取り戻せたかい?
お前が昔言ってたパラダイムシフトってやつ、それは今なんじゃないのか?
まだまだよちよち歩きかもしれないけど、少なくとも誰の指図も受けない立場で、自分の足で歩けるようになった瞬間。
やっと俺の人生がスタートしたんだ。

誰にも渡すもんか・・・俺だけの人生。

某友人からメシの誘いがあって、ハンバーグが食べたいとか言い出すから、東陽町まで行こうとしたんだ。
せっかくお客様用のヘルメットも買ったことだし、東陽町まではちょっと遠いし、彼をバイクの後ろに乗せて行けばいいやと思った。
怖かった。初めてのお客様だし。俺、自転車の二ケツもできなかったし。
細かい左折とか、発進とか、ちょっとだけ怖かったな。

でも、走り出したらこれまた最高に気持ち良くて。
「ノロノロ走ってんじゃねーよ!」と車線変更繰り返して、後ろで怖がるアイツを楽しんでた。
夜の道は、交通量も歩行者も少なくて最高だ。
東陽町まで案外早く着けたもんだ。

いつも通り、フォルクスでメシ食って、酒も飲んでいないのにまるで酔っぱらっているかのようなトークを繰り広げ、23時を回っていたか。
朝の失敗があるから、夜に無茶できない立場だったけど、そんなのおかまいなし。
「ちょっと遠回りするぜ」と、俺たちの家のある方向と逆へ走り出した。

メトロ東西線の車両基地を通り、豊洲のマンション街を抜け、有明方面へ。お台場に近付くにつれ、「こんな所に住みたいな」とか思いを馳せ、レインボーブリッジへ。一般道部分だったし、台場側だったからそこまでじゃなかったが、やっぱりレインボーブリッジを走りながら見る夜景は格別だ。ゆりかもめじゃ絶対に楽しめない景色。
地上に散りばめられた星屑が、思い思いに光を放っている。
だから、やめられないんだ。夜景マニアは。
彼女連れてきたらもっと最高なんだろうけど、その場合、背中越しにいる星の輝きが眩しすぎて、夜景どころじゃないかもな(笑)
100万ドルの夜景よりも美しい景色が、後ろにいるじゃないかって。
そんな恋をしてみたい。
今の俺ならできるかもって、根拠ないけどそんな気がしてる。

レインボーブリッジの対岸に渡り、芝公園の方に向かうと、東京タワー!
オレンジ色に輝くその塔をあんなに間近で見たのは久しぶりだな。
今はスカイツリーの方が人気かもしれないけど、俺たちの時代は東京タワーだったんだよ。
田舎から出てきて、なんか東京に出てきた象徴っていうか、憧れっていうか。
あの時は、夕方になれば帰らなきゃならなかった。遅くても22時前には東京を出なければならなかった。
それが今は日付が変わろうが何だろうが、ずっといられる。誰の目も気にすることなく。
就職先を選ぶ時、どうしても東京に残りたかった理由の1つ。

そういえば、昨日(28日)は、俺が今の会社にお世話になることを決めてからちょうど1年の日だ。
まだ2ヶ月だけど、これで良かったんだと思う。
不満はいっぱいあるし、イヤなことも面倒なこともいっぱいあるし、思い通りにならないことも多い。
だけど、幸せなんじゃないかな?少なくとも、俺だけはそう信じている。

話を戻そう。
日比谷通りを北上し、西新橋、日比谷を抜け、皇居沿いにバイクを進める。
信号のタイミングが合わずに止まってばかりだった。
交通量も増えてきたが、ほとんどがタクシー。少しは景気良くなったんだな~なんて思いながら、タクシーを蹴散らすように飛ばしてみた。

小川町あたりで右折し、靖国通りから京葉道路へ。ここまで来れば、あとは一直線。
お互いに秋葉原あたりから歩いて家に帰った時の話をしながら、あの時にやたらと時間がかかった記憶の道を、あっという間にすっ飛ばし、俺たちのホームタウンへ。

約束のシンデレラタイムよりも7分くらいオーバーして、ヤツを家まで送り届けた。
待ち合わせした時と、バイク降りた時の表情が別人のように変わっていた。
嬉しかったな。走ったことによって、あいつが抱えていたものが少しでも振り落せたんだとしたら、意味があるタンデム・ロードだったんじゃないかと思えてならない。

アイツだけじゃない。俺自身もそうだ。
勝手に自分でリミット作って、勝手に諦めて、目指す先を見失っていたんだ。
また昔のダメな自分に戻ろうとしていたのかもしれない。

何もなくていい。結果なんかいらない。
ただひたすら、邪魔にならない程度に想い続けていればいい。
種を蒔き、やっと芽が出るかどうかの時期。花が咲くまでは辛抱強く待ち続けていればいい。
俺が欲しいのは付け焼刃のストーリーじゃないんだ。
本物の、熟成された、かけがえのないワインなんだ。
前の記事で書いたように、インスタントな関係なんかいらない。
俺はアーティストなんだよ。肩書きやポジションではなく、自分自身にプライドを持っていればいい。
そんなことを教わった夜だった。

若いっていいね。真夜中に無茶できる。
もう少し、やんちゃ坊主でいさせてもらおうじゃないの。

何か拭い去りたいものがある人は、いつでも声掛けてくれ。
月がてっぺんまで上る時間に、俺たちだけのハイウェイを走ってみようじゃないか。

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